Column

ギンティ小林(男の墓場プロ所属 ライター)

『96時間』(08年)、『イコライザー』(14年)などの「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした!」ムービー・ファンならハートを掴まれること間違いなしな『ジョン・ウィック』。本作の見所は劇中、ジョン・ウィックが披露する格闘技と射撃を融合させた独特な戦闘スタイル・ガン・フー。こういう「実践的には間違いだけど、映画的にはカッコいいんでアリ!」な銃撃戦の元祖といえば『男たちの挽歌』(86年)からはじまるジョン・ウー監督の香港ノワール映画だろう。ウーが描いた、2丁拳銃を装弾数無視で多弾数速射する「その嘘、買った!」と言いたくなるようなファンタジックな射撃スタイルは、『デスペラード』(95年)『マトリックス』(99年)などのハリウッド映画だけでなく漫画、ゲームにも多大な影響を与えた。そして、このような銃撃アクションを、英語圏では「GUN FU」と呼ぶようになった。

ウーが提示したガン・フー・スタイルをさらに進化させた映画として大事なのが『リベリオン』(02年)。この作品では、カンフーや空手などの武術と銃撃を融合させ、相手と接近して撃ち合うガン=カタと呼ばれる映画オリジナルの格闘技が登場。清々しいくらいにリアリティを放棄し、カッコ良さのみを追及したガン=カタのインパクトは凄まじいものがあった。それゆえに、ガン=カタを超えるガン・フーは10年以上生まれることがなかった……。

そんなガン・フー映画界に新風を巻き起こしたのが『ジョン・ウィック』。本作が描くガン・フーはジョン・ウー・スタイルともガン=カタとも違う新流派。まず特徴的なのが、これまでのガン・フーは装弾数を無視した2丁拳銃アクションが主流だったが、本作では1丁のハンドガンを使う実戦的なコンバット・シューテイングがベースとなっている。劇中、ジョンが披露するテクニックは、C.A.R(center axis relock stance)システムという射撃スタイル。両手を前方に伸ばす従来の構え方と違い、両手を胸の前で合掌するような状態で銃を構えるのが基本。こうすると、室内などの狭い空間での撃ち合いに適しているうえに、手が届くような近い距離にいる相手でも無理なく射殺でき、マガジン・チェンジもしやすい、という実に合理的な殺人法だ。ちなみにジョンは敵を射殺する際は、基本的に1人に対して最低2発は弾丸をブチ込んでいる。

そんな超実戦的な射撃スタイルと融合する格闘技も『リベリオン』のようなカンフー・チックなものではなく柔道、柔術、ブラジリアン柔術、そしてロシアの軍隊式格闘技システマというゴリゴリの実戦系。それらの武術をキアヌは撮影前、4ヶ月間特訓し、撮影では90パーセントのスタントを自ら演じたという。そして完成した本作のガン・フーは、これまでの見た目の派手さを重視していたものと違い、「本当に有効的かも」と思わせてしまう説得力のあるものとなっている。

そんな殺人スキルを持つジョン・ウィックって何者?と思ってしまうが、実は映画の中でちゃんと彼が殺し屋になる以前の経歴が描かれている。それは、殺しを決意したジョンがシャワーを浴びるシーンにある。ここでジョンが刺青だらけのボディのオーナーであることがわかり、背中には「Fortis Fortuna Adiuvat」と彫ってある。これはFortune Favors the Bold(幸運は勇者に味方する)。ハワイのカネオヘ湾の米軍基地に所属する海兵隊のモットー。彼が軍隊帰りということを意味している。